東京家庭裁判所 昭和39年(家イ)2474号 審判 1964年7月01日
国籍 大韓民国 住所 東京都
申立人 金京子(仮名)
国籍 アメリカ合衆国 住所 同国テキサス州
相手方 ジョセフ・マクドナルド・ホールマン(仮名)
主文
昭和三六年一一月七日東京都港区長受理にかかる申立人と相手方の婚姻の無効であることを確認する。
理由
申立人は主文同旨の審判を求め、相手方との間にその旨の合意が成立した。
申立人及び相手方の各審問の結果、東京都港区長の各受理証明書、アメリカ合衆国カルホルニア州の裁判所の中間判決書駐日アメリカ合衆国大使館の証明書によれば、次の事実が認められる。
すなわち、申立人は大韓民国の国籍を有し、昭和三五年以前から東京都立川市などに居住し、昭和三五年九月頃アメリカ合衆国籍のロバート・エム・ワトソンと立川市などに同棲し、昭和三五年九月一六日東京都港区長に婚姻の届出をなし、駐日アメリカ合衆国大使館及び駐日大韓民国代表部に婚姻の申告をなし、婚姻したのであつたが、右ロバート・エム・ワトソンは三ヵ月位にして単身アメリカ合衆国カリホルニア州に帰ることとなつた。その後同人から離婚の申出があつたので、申立人は二年間生活費を送付することを約束させてこれを承認した。ところが、ロバート・エム・ワトソンはその後間もなく、所在を明らかにしなくなつたので、申立人は前記立川市にあるアメリカ合衆国軍の基地に勤務する軍人であるアメリカ合衆国籍の相手方ジョセフ・マクドナルド・ホールマンと懇意となり、これと婚姻しようとした。しかし、前記エム・ワトソンとの婚姻が解消していなかつたので、相手方がアメリカ合衆国カリホルニア州に赴き、エム・ワトソンに離婚訴訟を提起することを求め、その結果、昭和三八年四月一七日アメリカ合衆国カリホルニア州サンバナディオ郡の裁判所において申立人と前記エム・ワトソンの離婚の中間判決がなされ、その効力を生ずる昭和三八年五月二一日より一年を経過した時に、離婚の効力を生ずることとなつた。相手方が前記判決書をもち帰つたので、申立人は駐日大韓民国代表部にこれを添えて離婚の申告をしたが、同代表部では先の離婚の申告が戸籍に記載されていない旨答えたので、申立人は離婚の申告を撤回し、その後昭和三八年一一月七日東京都港区長に相手方との婚姻届をなし、更にそれぞれ駐日アメリカ合衆国大使館及び駐日大韓民国代表部に婚姻の申告をなし、いずれも受理されたのであつた。ところが、申立人が相手方と共にアメリカ合衆国に渡らんとしたところ、駐日大韓民国代表部の前記回答は誤りであり、駐日アメリカ合衆国大使館も誤つて婚姻の申告を受理したことが明となり、申立人はエム・ワトソンとの婚姻が解消していないのに重ねて相手方と婚姻したこととなつたのである。相手方ジョセフ・マクドナルド・ホールマンはアメリカ合衆国テキサス州に永く居住していたが、軍人となつて日本に来り、昭和三八年一一月頃まで前記立川基地のアメリカ合衆国軍に勤務していたが、その頃前記のように申立人と婚姻し、アメリカ合衆国に帰り、退役して以前に居住していたテキサス州○○○○第○○街二七〇二番地に永住の意思をもつて居住し、航空整備員をなしていること、相手方は申立人と婚姻したが重婚となつて申立人をテキサス州○○○○に連れ来ることができないので、これを処理し、再び適法に婚姻するため昭和三九年五月旅行者として日本に来たものであること。以上のことを認めることができる。
以上の事実から考えれば、本件事件については、当裁判所が国際裁判管轄権を有するものと考えられ、法例第一三条によれば、婚姻が実質的要件を欠くことによつて無効となるかどうかは、婚姻の当事者の本国法によるべきところ、大韓民国の法律においては「婚姻が重婚の禁止に違反したときは当事者その他はその取消を請求することができる」旨を定めており、アメリカ合衆国テキサス州の制定法においては「婚姻当時身体の性来又は不治の不能のとき、その他婚姻を無効ならしめる障害のあるときは、婚姻関係は解消されるべきものであり、この場合には、裁判所は婚姻を無効であると宣告しうること、重婚は犯罪であること」を定めており、これは重婚の後婚を無効とするものと解せられるので、申立人と相手方の婚姻が重婚となる場合はその婚姻は無効と判断すべきである。しかして申立人のなした前記婚姻については、いずれも駐日大韓民国代表部及び駐日アメリカ合衆国大使館に申告されているので、アメリカ合衆国、大韓民国のいずれの法によつても婚姻は成立しているものと認められ、前記中間判決は承認すべきであるので、申立人と相手方が昭和三八年一一月七日東京都港区長に届出でた婚姻は申立人とエム・ワトソンとの婚姻の継続中になされた重婚であつて無効のものといわざるを得ない。
よつて申立人と相手方との間に前記の如き合意があり、以上の事実につき争がないので、申立人の申立を相当と認め主文のとおり審判する。
(家事審判官 脇屋寿夫)